第1話・喪失

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 俺は、走っている。  東急東横線を武蔵小杉駅で飛び降り、駅前のショッピングモールには目もくれず、高層マンションが散見する住宅街に向けて一目散に走っている。  高校の授業終わり、誰とも別れの言葉を交わすことなく教室を後にした。おそらく今日の帰宅部のエースは俺だ。帰宅しているわけではないのだが。  走ったまま、右のポケットからiPhoneを取り出しロック画面を見た。  17時55分。このまま行けばギリギリ間に合いそうだ。  目に入る汗が鬱陶しくて、左の手のひらで顔の汗を拭き取りそのまま自慢の金髪を無造作にかきあげた。  目的のマンションの前にたどり着いた。暑くて仕方がないので、手で顔を扇いでみたりワイシャツをぱたぱたさせるものの、効果は特になし。仕方ない、このままお邪魔しよう。時間がない。  部屋は202。電車の中で確認したから確かだ。自動ドアの横にあるエントランスのインターホンで部屋番号を入力し、呼び出した。
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