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俺の彼女は、同じ会社に勤めている女上司だ。
「……はあ? 契約結ぶのに失敗したですって?」
ドスのきいた声がオフィスに響く。その声は室内の空気を一気に下げ、社員全員に寒気をもたらす。
内線電話で会話中の彼女。相手は営業二課の人だが、こちらの仕事に影響する程のミスを犯したようだ。それが怒りを買ってしまい、この状況。
ただでさえ外は冬の寒さで覆われているのに。空調の効果を無意味にしないでもらいたい。
「K社の生地が最適だから絶対取ってきてって言った筈よ? え、怒らせた? 嘘……信じられない。他のところって、売り上げ変わるから妥協なんて出来ないわ」
説教は止まる様子もなく、凍りついた空気は継続中。
「もう1回行ってきて。土下座でも何でもして誠意を見せなさいよ。いいわね?」
叩きつけるように受話器を置き、荒っぽく短い息を吐いた。
しばらく機嫌が悪くなるのは確定。恨むぞ、営業のヤツ。
「……スゲーな、『氷の女帝』」
「いやー、実に恐ろしい……」
近くで俺の同期がボソボソ話す。この『氷の女帝』とは彼女のアダ名だ。
肩ぐらいの黒髪ワンレングスで、メタルフレームの眼鏡に濃いグレーのパンツスーツ。キャリアウーマンを絵に描いたような出で立ち。
仕事が優秀で、出世も早く現在27歳だが役職持ち。だから『女帝』。
で、キレると空気が凍りつくから『氷の』が付くという訳。
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