夢中の理由。

2/20
323人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 俺の彼女は、同じ会社に勤めている女上司だ。 「……はあ? 契約結ぶのに失敗したですって?」  ドスのきいた声がオフィスに響く。その声は室内の空気を一気に下げ、社員全員に寒気をもたらす。  内線電話で会話中の彼女。相手は営業二課の人だが、こちらの仕事に影響する程のミスを犯したようだ。それが怒りを買ってしまい、この状況。  ただでさえ外は冬の寒さで覆われているのに。空調の効果を無意味にしないでもらいたい。 「K社の生地が最適だから絶対取ってきてって言った筈よ? え、怒らせた? 嘘……信じられない。他のところって、売り上げ変わるから妥協なんて出来ないわ」  説教は止まる様子もなく、凍りついた空気は継続中。 「もう1回行ってきて。土下座でも何でもして誠意を見せなさいよ。いいわね?」  叩きつけるように受話器を置き、荒っぽく短い息を吐いた。  しばらく機嫌が悪くなるのは確定。恨むぞ、営業のヤツ。 「……スゲーな、『氷の女帝』」 「いやー、実に恐ろしい……」  近くで俺の同期がボソボソ話す。この『氷の女帝』とは彼女のアダ名だ。  肩ぐらいの黒髪ワンレングスで、メタルフレームの眼鏡に濃いグレーのパンツスーツ。キャリアウーマンを絵に描いたような出で立ち。  仕事が優秀で、出世も早く現在27歳だが役職持ち。だから『女帝』。  で、キレると空気が凍りつくから『氷の』が付くという訳。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!