第1章

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「……まず、やってみてください。悪いところがあれば指摘しますから」 「あ、はい!」 彼女はテープを長く伸ばして切り、段ボールにテープの端をつけてから、ゆっくりとずれないように丁寧に貼りだした。 「ストップ! それじゃ時間がかかりすぎます! テープ貸してみてください」 彼女から奪い取るようにテープを受け取る。 「テープ逆です。粘着面が上です。それから、段ボールにテープの端をつけたら、一気に引いて、テープを切るときは垂直にして押し切ります」 「え……でも、それだと少しズレて……」 「いいんです、何のために三点固定するんですか」 「あ、はい……」 「じゃあ、この方法でやってください。俺は作業に戻ります」 彼女が上手くできるかまで確認していたら、とんでもないタイムロスになってしまう。自分の経験した分野の作業が来たときがアパートから出るチャンスなのだ。一秒でも惜しい。 「あ、ありがとうございました!」 さっさと出ていこうとする俺の背中に彼女が言葉を投げた。振り向かなかった。 けれど、彼女の迷惑行為は収まらなかった。 駐輪スペースに第一弾を置き、部屋に戻ると、彼女が俺の部屋の前に立っていたのだ。 「……どいてください、そこに立たれるとハンドリフトで入れません」 「あ……すみません……でもあの、テープが上手く切れなくて……力を入れると、テープが伸びてしまって……」 「それは力が足りないんです! 垂直に力を入れて思いっきり押し切れば切れます! もう俺の邪魔はしないでください!」 このとき、なぜかチップの抑制はなかった。度重なる作業の妨害に対する発言だからか。 彼女は心底申し訳なさそうに身を縮めて、怒鳴られたことに怯えていた。 「すみません……本当にすみませんでした」 「じゃあ、失礼します」 彼女が玄関から退く。ご丁寧にドアを開いて俺が入るのを待って。 ありがとうさえ言わずに中へ入る。すぐに作業に没頭した。彼女にかけられた迷惑への憤りは暴力的なまでに効率を高めた。怒れば怒るほど、手は早く動いた。 ただ、出来上がったものをハンドリフトで運ぶときに、ふと彼女の顔が浮かんだ。すみません、と泣きそうな表情で謝る顔が。 この、今夜の作業が無事に終わったら声をかけてみよう。あのときは限られた時間で気持ちがささくれだっていたので、と。 今は作業だ。
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