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「……まず、やってみてください。悪いところがあれば指摘しますから」
「あ、はい!」
彼女はテープを長く伸ばして切り、段ボールにテープの端をつけてから、ゆっくりとずれないように丁寧に貼りだした。
「ストップ! それじゃ時間がかかりすぎます! テープ貸してみてください」
彼女から奪い取るようにテープを受け取る。
「テープ逆です。粘着面が上です。それから、段ボールにテープの端をつけたら、一気に引いて、テープを切るときは垂直にして押し切ります」
「え……でも、それだと少しズレて……」
「いいんです、何のために三点固定するんですか」
「あ、はい……」
「じゃあ、この方法でやってください。俺は作業に戻ります」
彼女が上手くできるかまで確認していたら、とんでもないタイムロスになってしまう。自分の経験した分野の作業が来たときがアパートから出るチャンスなのだ。一秒でも惜しい。
「あ、ありがとうございました!」
さっさと出ていこうとする俺の背中に彼女が言葉を投げた。振り向かなかった。
けれど、彼女の迷惑行為は収まらなかった。
駐輪スペースに第一弾を置き、部屋に戻ると、彼女が俺の部屋の前に立っていたのだ。
「……どいてください、そこに立たれるとハンドリフトで入れません」
「あ……すみません……でもあの、テープが上手く切れなくて……力を入れると、テープが伸びてしまって……」
「それは力が足りないんです! 垂直に力を入れて思いっきり押し切れば切れます! もう俺の邪魔はしないでください!」
このとき、なぜかチップの抑制はなかった。度重なる作業の妨害に対する発言だからか。
彼女は心底申し訳なさそうに身を縮めて、怒鳴られたことに怯えていた。
「すみません……本当にすみませんでした」
「じゃあ、失礼します」
彼女が玄関から退く。ご丁寧にドアを開いて俺が入るのを待って。
ありがとうさえ言わずに中へ入る。すぐに作業に没頭した。彼女にかけられた迷惑への憤りは暴力的なまでに効率を高めた。怒れば怒るほど、手は早く動いた。
ただ、出来上がったものをハンドリフトで運ぶときに、ふと彼女の顔が浮かんだ。すみません、と泣きそうな表情で謝る顔が。
この、今夜の作業が無事に終わったら声をかけてみよう。あのときは限られた時間で気持ちがささくれだっていたので、と。
今は作業だ。
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