第1章

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それから、黙々と作業を続けて、午前五時十三分前になった。 「……やった! やったやったやったやった……!」 150箱目が詰め終わった。 「うおおお! 終わったああ!」 これで。後は最後の荷物を駐輪スペースに置いてくれば、この地獄から解放される。命が脅かされる恐怖から解放される。 急いで箱を台座に積み上げ、ハンドリフトで持ち上げて運び出す。急ぎすぎて左足の先が滑車に踏まれたが、痛みはなかった。スニーカーに傷がついたけれど、このスニーカーともおさらばだ。 玄関のドアを開けて固定する。エレベーターにすぐさま運ぼうとしたとき、亡霊のように立っている彼女と行き合った。青ざめた顔には生気がなくて、表情を失っているさまは不気味さを感じさせた。 「……終わったんですね」 「あ、はい。じゃあ急ぐんで」 「壁、薄いんですね。やった! って声が聞こえました」 「ああ……うるさくしてすみません。じゃあ、本当に急ぐんで」 「……私の箱も運んで頂けませんか? ハンドリフトが、やっぱり上手く使えなくて……部屋は組み立てた段ボールでいっぱいになっちゃうし、もうどうしたらいいか……」 「それは重大なルール違反ですから。できません。失礼します」 彼女は何て馬鹿げたことを言い出すのか。職業訓練を名目にしているサバイバルで手伝えと? 無表情で淡々と頼んでくる姿に、図々しいのを通り越して恐ろしささえ覚える。 「待って! お願いします! まだ一つも運べてないの! お願い!」 「……自己責任って分かりますか?」 チップもルール違反には働かないらしい。当然だ。このアパートでのルールを守らせるためのチップなのだから。 彼女の顔が歪む。泣くのかと思った。 「ひどい……ひどいひどい! 私、ちゃんとお願いしてるのに! あなたは間に合うのに! ひどいよ!」 本当に彼女はチップが埋め込まれているのかと不思議になるほど身勝手なことを叫んで、彼女が部屋のなかに駆け込んで乱暴にドアを閉める。ガン、と彼女の感情そのままの激しい音を立てて。 とりあえず、これで大丈夫だろう。エレベーターに向かって昇ってくるのを待つ。腕時計を見ると、あと十分。エレベーターは一分程度で来るから、余裕で間に合う。 よかった。深く息をつく。 すると、背後から何かがぶつけられた。立て続けに。 「馬鹿! 死ね!」
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