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「星を観に行きたいんだけど・・・」
食事の途中で、急に彼が言い出しました。
就活していた彼が内定をもらい、その
お祝いで2人で食事をしていた時です。
「別にいいけど・・・」
宇宙とか星座とか、星の事が好きなのは知
っていたけど、一緒に観に行こうって言わ
れたのは、初めてでした。
ただ、連れて行かれた場所は、夜に行くに
は怖くなってしまうような、周りに家や
街灯等もない、暗く寂しい山奥です。
車の外に出るのが怖かったけれど、彼に
促されて隣に行きました。
さっそくあれこれ教えてくれます。
「ほら、あそこだよ、わかった?」
「えっ どこ? 分からないよ」
「あそこだよ。指の先を観て」
私の肩に手を掛けて自分の方に引き寄せ、
私の顔の右側からピッと手を伸ばして
星空の1点を指さしました。
右耳のすぐ後ろで彼の声がして、
くすぐったかったけれど、知られないよう
我慢していました。
「あの星とあの星とあの星の3っを線で結ぶ
と三角形になって、それが夏の大三角って
言うんだ」
彼の指が三角形に動くのに合わせて、
私の顔も三角形に動く。
「あっうん 分かった、本当に三角形だね」
(う~ん どの星を結んでも三角形になると
思うんだけど・・・)
結局、星の事は良く分かりませんでした。
それからも彼は星座のこととか、分かってい
ない私にいろいろ教えてくれたけど、星のこ
とよりも目をキラキラさせて夢中になって
説明している彼を見るのが嬉しくて。
それに、彼が必要以上に肩や腰に手を回して
きたり、顔を近づけて説明してくれるから
ドキドキして・・・
そのうち、彼が後ろから軽く抱きしめてきて、
話し出しました。
「俺、小学6年生の頃に毎週の様に親父に
天文台に連れていってもらって星を観てたん
だよ」
「ふ~ん」
「その頃は絶対、宇宙飛行士になるんだって
思ってた」
「カッコイイね、宇宙飛行士」
「でも中、高校生の頃から、段々と現実的な
ことを考える割合が多くなっていってさ」
「殆どの人がそうだよ、きっと。一部上場の
自動車メーカーの内定が取れたんだから
それだって、すごいことじゃない」
「頑張って働けばそれなりの人生はおくれま
す、ってことだな。でも・・・」
「でも ?」
「でも いいんだ、夢じゃなく別の目標が
出来たから」
「目標 ? 何それ ?」
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