『雨の日に差されることのない傘』

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ほんの数分前までは晴れていた空が曇りだした。 厚い雲は空を隠し、僕の視界を暗くした。 僕は歩みを止めた。 “雨の匂いがする。” そんな事を考えたが、すぐにやめた。 なんせ、現在僕は傘を持ち合わせていないのだから。 きっとこの後、雨にうたれて濡れることなんてわかりきっている。 なのに、濡れることを気にしていてもしょうがない。 どうせ濡れたとしても、せいぜい風邪を引く原因になるくらいであろうから、気にしている事さえ馬鹿馬鹿しい。 再び僕は歩き始めた。 しかし、その速度は止まる前とさして変わらない。 雨が降りそうだからと小走りになる訳でもないし、雨に打たれるであろうと言っても、変に遅くするわけでもない。 ただただ、とぼとぼと。 僕はこの重苦しい、沈むような空気の中を歩く。 そしてぼんやりとした灰色の空を見上げた。 “なんだか空の色が濁った事で、僕の視界までもが曇ったようだ。” 少しだけ視界が歪んだような錯覚に襲われた。 余りいい感覚ではない。むしろ、不愉快だ。
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