『雨の日に差されることのない傘』

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僕は、この雨の匂いとジメジメとした空気に嫌気がさした。 そこで、ちょうど数十メートル先にあるコンビニで、雨が降るまで待ってやろうと思った。 雨が降ってしまえば少しは違うだろうと思ったのだ。 雨はただただ冷たい。この生暖かい空気を肌で感じるのとは違う。 何かを責めるわけでもなく、洗い流すのでもなく、ただ降り注ぐ水。 雨さえ降り出してしまえば。 こんなつまらない僕にとっては都合のよく、居心地のいい世界になる。 僕は少し歩く速度を速めた。 別にこの瞬間に雨が降り出したなら、また速度を戻せばいい。 しかし降ってこないのであれば、すぐさまにでもこの重苦しい世界から抜け出したい。 思ったより早くコンビニにつく事ができそうだ。 後はコンビニの駐車場に入ってくる車に気を付けながら、僕は入り口の戸を潜ればこの世界から抜け出せる。 あと数歩で入り口と言いうところで、僕は立ち止まった。 入り口の隣にあるゴミ箱に立てかけてある、紺色の傘が目に留まったからだ。 傘立てがあるというのに、何故ここに? 骨が折れたため捨てられたのだろうか? それにしては、綺麗にとじられている。 結局、誰かがいたずらで傘立てから引っこ抜いたのだろう。 僕は適当な理由をつけて納得した。 どうせ濡れながら帰るつもりなのだ。 傘など、どうでもいいはずなのに、何故あんなにも気になったのかが不思議でしょうがない。 このコンビニでもビニール傘は購入できる。 しかし、家に傘があるのに買って帰るのはもったいない。 そもそも、家に帰るだけなのだ。濡れて帰る方がどう考えても良い。 僕は漠然とそんなことを思いながら、入り口を潜った。
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