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温かな液体の中へ深く手を沈めると、手の中に水が流れ込み、小さなそれを攫っていった。
緑色の姿が景色から消えるまで眺めたあと、私は爪の先に残った痕を見つめる。
そこに残るのは、かつて私の手の中にあったはずの残滓。
舌でぺろりと舐め取ると、青臭いにおいと、苦い草の味がした。
爪の先をもう一度眺める。
けれども、そこにはもう跡形もなくて、川の麓には私しか残されていない。
「足立としたい」と出した答えに、「俺も、繭香を抱きたい」
そう呼応した手が離れないよう、ぎゅっと握りしめた。
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