第1章

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清子は台所にあるテーブルの前の椅子に座り、お茶を飲んでいる。 アパートの通路に面した、台所の細目に開けた窓から、隣の部屋に引っ越してきた人の荷物が搬入される音、それに引っ越してきた人と大家さんの話し声が聞こえてきた。 「ありがとうございます。 私のような者に部屋を貸して頂いて」 「礼を言うなら、保護司の赤松さんに言いなさい。 あの方が紹介する人は、自分の犯した罪を償おうとする人だけだからね」 「そう言って頂けるだけでも、ありがたいです」 「それよりも、挨拶回りだけはしといてくれ」 「はい、分かっています。 大家さんに聞いた人数分の茶菓子、用意してありますから」 「それなら良いが。 町内会の決まりごとなんかは、隣の部屋の小野寺さんに聞いてくれ」 「分かりました、ありがとうございます」 大家さんが帰って行く音、何時も突っかけている下駄の音が遠ざかって行く。 「アパートの人達に挨拶回りしてくるから、荷物を運び込んでおけ」 運送屋に声を掛ける声が聞こえたあと、清子の部屋の呼び鈴が鳴る。
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