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「井川達、俺らより早く来てたよな?」
飛鳥の友人がそう言って、彼らは手紙を持ってこっちに来る。
「こんなん入ってたんだけど、誰か入れたの見てない?」
飛鳥がそう尋ねてくる……俺に。
さあ、わかんない。
そう答えればいい。
一応用意しておいた答えだし、これ位ならいつも話せる。
挨拶と大して変わらない。とても簡単な事だ。
「 」
なのに俺の喉からは音が出てこない。
どうして。
慌てて口を閉じ、首を振る。
手紙を見て呆気にとられた。
そういう風に思われていればいい。
「さー、俺ら一緒に来たけど、飛鳥んとこに何かしてんのは誰もいなかったと思う。数井は後に来たし」
井川がそう言って、な?と俺らに振る。頷いて答えた。
そ、と飛鳥達は納得した。
そして続けて、
「先に誰来てたかわかる?」
俺たちに向けて聞く。
俺は、やっぱり何も話せない事に焦る。
セリフは浮かんでくる。
なのにそれを声に乗せようとすると何も出ないのだ。
どうして。
自分を人魚姫に重ねて妄想なんてしたから罰でも当たったのか。
それとも手紙を出したせいで限界に近づく俺の心臓が破裂しないよう、これ以上言葉を交わせないよう自己防衛でも働いて声を出さないようにしているのか?
それにしては逆効果だ。
考えてみても出ないものはどうしようもなく、どうだっけ?的な困ったような笑みを浮かべて井川を見た。
彼はそれに答えて思い出そうと首をひねる。
「朝練ある奴ぐらいじゃなかった?」
そっかー、ありがと。と答えを聞いた彼らは戻っていく。
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