プロローグ

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   秋も終わりかけの冷たい夜風に、焦げた臭いが混ざっていた。  冬に向かうにつれ、空気は澄んでくる。それが、星空を綺麗に見せる理由であるのだが、今夜はそれに焦げ臭さが混ざっている。ともすれば、不快に思いがちな臭いではある。  しかし、家路を急ぐ一人のサラリーマンには、それがどこか懐かしさを感じさせた。  枯れ木や枯れ草を燃やしているような臭いは、彼の少年時代には夕食の時刻に感じられた焚き火のそれを思わせる。しかし、時間は夜の七時を回っている。 「今時、焚き火なんてする家も無いよな」  大気汚染やご近所問題から、家庭の庭先で焚き火をするなど見られなくなった光景だ。それが、公園や空き地であっても同様である。しかも、夕刻とは言い難い時間帯。  サラリーマンの彼としても、この臭いが焚き火のものでは無いと判断する。ただ彼の記憶で、それは確かに木材などが燃えるような臭いであった。
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