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辺りに漂っているだけなら、彼も特に気に止めたりはしなかっただろう。
しかし、家路を急ぎ足を進めれば進める程、その臭いは強くなり鼻の奥で不快感を感じさせた。
不快感は、やがて嫌な予感へと変化する。
半年前に長期ローンを組んで、ようやく手に入れたマイホーム。通勤は不便になったものの、憧れの木造建築二階建てを購入。
妻と娘も、喜んでくれている。
思わず彼は、進行方向の更に先へと視線を送っていた。緩やかなカーブの先には、街灯や家々の明かりに照らされ、黒く浮かび上がる木々の集合体が目に入る。
毎日の事ながら、そのシルエットに不気味さを感じるが、何の事は無い単なる松林なのである。
ただ、彼の家は松林の向こうにあった。
その松林の向こうの空が、灰色の煙を立ちのぼらせている。しかも足を止めて見ていると、その空がにわかに赤く染まり始めた。
「冗談じゃねぇぞ……」
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