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そんな言葉と共に、サラリーマンの足は歩みを再開し徐々にその速度を速めていく。同時に、ポケットへと手を突っ込んでいた。
携帯電話を取り出し電話する。
「話し中?」
妻の携帯電話は、先月の機種変更時に契約の見直しを行い、キャッチホンのサービスを取り止めにした。
程なくして、留守番電話に接続される。
いかなる理由で、妻は電話をしているのか。まさか、マイホームが火に包まれ、消防に連絡しているのでは無いか。
それとも、妻か娘が火傷を負い救急車を要請しているのか。
松林の向こうの空が、より赤くなる程にサラリーマンの不安は膨らむばかり。その足は、彼の出来る全力疾走を超えた速度を生み出していた。
電話で連絡がつかないのであれば、自身の目で確かめるしか無い。
あとは、目の前の松林を迂回すれば、自宅のある住宅地の一画が見えてくる筈。彼は、更に速度を上げた。
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