第三章  社内研修  相川との出会い

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福岡ホテルでの不審死  11月7日の休み時間に福岡ホテルの相川から藤澤に電話が入ってきた。電話から聞こえる彼女の声はまだ幾分かは興奮の醒めぬ語り口の早さがあった。「ごめんなさい一寸待って」と声がしばらく途絶えていたが、次には落ち着いた声が流れてきた。全く研修の時と同じだなと記憶に残る彼女の可愛い仕草が想い浮かんだ。  昨夜、彼女が務めるホテルでも70過ぎの男性の不審死があり、その処置に彼女は立ち会わされたようで、死因は心臓発作で、とても穏やかな死に顔だったという。先の研修で発表した内容に興味を持ってくれていた様で、同病相哀れむみたいな感情が彼女に生じたものと思われた。九州のホテル業界でも何時もの年よりもお客さんの不審死が多い傾向があるとの噂が流れていることを語った。そして彼女はこういった。 「何等かの裏組織が関与していることってないのかしら。馬鹿みたい。なにを想像しているんだろう。ごめんなさい変な電話をして。機会があったらお会いしてくださいませんか」 と彼女はうれしい言葉を最後に残してくれた。  彼女と付き合えるようになったら愉しいだろうな。あのコロコロと軽やかな声の響きも可愛い。九州に遊びに行ってみるかと心踊る想いも湧いてきたが、彼にはまだ消え去る事のない想いが胸の中を去来していた。残念だがこの想いはお墓に行くまで引きずっていくより仕方ないことだ。それはそれとして相川が呟くように言った「何等かの裏組織が関与していることってないのかしら」の言葉、これは最初に遭遇したお客さんの死、栗原さんの穏やかな死に顔ではとても思いつくことではなかった。  安藤小百合さんはストーカによる殺人。栗原さんの身内の話ではかなり進行した悪性の腫瘍で医者から余命1年と宣告されていて、死に場所を探しているような感じだったという。古橋さんの死は自殺だったのか。いや、そんなことは無いだろう。室内には自殺を思わせる遺留物は無く、ベテランの鑑識家と医者が病死と判断する以上、古橋さんは突発的な病死と思うほうが妥当だろう。相川のところで亡くなられたお客様はどうだったのだろうか。
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