第四章  藤澤活動開始

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「卒業して初めての同窓会。凄く愉しかったです。半分以上は主婦に収まり、二人の子供がいる人もいて、自分はこれで良いのかなと思わされる事もありましたけど、充分に楽しみました」 「それは良かったですね」  コーヒーが二人の前に並んだ。 「お話とは、あの事ですか」 「はい、その事です。亡くなられたお客様はお気の毒でしたが、よい経験をさせてもらいました。これは今だからいえることであって、事が収まるまで右往左往していた自分を思い出して、恥ずかしくなりました」 「私も似たようなものでしたよ。冷静沈着な国生さんでも『死体を初めて目の前にしたときは喉が渇き、足が震え、記憶もそぞろだった』と,私に語ってくれました。この言葉を慰めにして、何れ自分も国生さんみたいになりたいと思っています」 「あの国生さんが」 「そうです、そしてこうも言われていました。『最初のときは死体を目の前にするのは不気味で怖かったけど、今はこうした形でこの人との出合うのも一期一会、何かの因縁と思うようになった』と。僕みたいな若造にはまだ難しいけど、そうなれたらいいなと思っています」 「結局は多くの経験が人を作っていくということですね」 「余り遭遇したくない経験ですけどね。お話を伺いましょうか」 と 彼が問うと、相川は急にもじもじとして目を落とした。 「改めてそう聞かれると・・・。考えてみるとお話したいことはこの間の電話で充分だったみたい。でもいいか。研修のときホテルでの不審死が増えている傾向がある事、『8名のうち4名が犯罪に関与していないか』の質問があったでしょう。その話を聞いたとき時、私は不審死の増加は単なる偶然でなく、故意的なものだったらと、馬鹿みたいな想像が生まれてきたと思ってください。その想いが浮かんで来てからのフロント業務、特に始めて泊りのお客様には特別注意を払うようになりました。そしてお客様の死に遭遇する事になりました。私は瞬間的な死だったとしても、発作時の驚きとか恐怖心が体に残っていると思っていたのですが、お客様の穏やかで、満足そうな死に顔をみて、これは覚悟の死ではなかったのかという想いが強くなってきました。この想いが藤澤さんに『裏組織』という言葉を投げかけることになりました」
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