第四章  藤澤活動開始

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「確かに、死に際の思いは死に顔に留められているかもしれませんね。最初に立ちあったお客様は相川さんの言われる様に、覚悟の死かと思えるほどにとても穏やかなお顔をされていました。二度目は若い女性の陵辱後の扼殺でしたが、その顔にはやはり恐怖の色合いが強く残っていました。最初に亡くなられた方の追跡調査では、その方は医者から余命半年との宣告を受けており、自死の疑いももたれましたが、それを肯定するものは何も探し出せなかったようです。そして貴方から『裏組織』言葉を聞き、この言葉が頭の中に、浮かんでは消え、消えては浮かぶようになって来ました」 「ごめんなさい、だけど、こんな事を話せるのは貴方以外におられないものですから」 「いえ、電話を頂いて嬉しく思っていました」 「良かった。迷惑ではなかったのですね」 「はい、今後ともよろしく」 「はい、私も」 「貴女の『裏組織』の話をお聞きしてから、少し動いてみました。亡くなられたお客様が泊まられた同じ日に宿泊されたお客様の人数は289名でした。289名の宿泊カードを調査したところ、符合する日に泊まられたお客様のうちの8名が宿泊カードに記載された住所にはおられず、記載された電話番号も他人名義か不使用の電話でした。貴方が言われるように『裏組織』があるものとすれば、この8名の中に関係者がいるのかも知れません。しかし僕が出来る事とはこれくらいのもので、後はどうすればよいのか迷っています」 「どうして8名に絞り込めたのですか」 「再利用客や家族や外国の方を除外すると、始めてお泊りになったお客様の数が51名。この51名のお客様の住所に、国生さんの承諾を得て、お礼と今後の利用をお願いする葉書を送ったところ、あて先不明で戻った葉書が8枚でした。新規客の一割を超える方が秘密裏の行動をしているのを知って少々の驚きを覚えました」 「そんな方法があったのですね。私も利用させてもらっていいですか」 「構いません」 「若し『裏組織』なるものが存在すれば、同じホテルに宿泊する事は殆んどないだろうと思いますが、研修の後に私がフロントで受付をするときは、始めてお泊りになる方のお顔やお体の特徴を詳しく書き留めておくようにしました。ホテルで死亡したお客様がお泊りになっていた日に同宿された始めてのお客さんは21名。メモ帳を見れば、私が担当したお客様の大方の記憶が戻ってくるかと思っています」
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