第1章

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「今日こちらに引っ越して来ました。 宜しくお願い致します」 女は丁寧なお辞儀をした。 「お隣さんですか、こちらこそ宜しくお願いします」 男も丁寧にお辞儀を返し、 「なんでまた、こんな辺鄙なとこに……」 男は思った事をつい口走ってしまった。 「あっ、いえ、なんでも……」 取り消そうとしどろもどろしていると、 「安かったので……」 女は気取らずに答えた。 「そ、そうですよね。 ここ、曰く付きとかなんとかで超格安ですもんね」 男は言った後に、しまったと思い、 「あっ、いえ、なんでもありません」 再びしどろもどろになる。 クスクスクス 女は微笑んで、 「これから宜しくお願いしますね」 もう一度お辞儀をして部屋の中へと入って行った。 暗い格好に、暗い表情…… その中で浮かべた微笑みに、男は妙に惹かれ、テンションを上げてバイトへと向かった。
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