終わりの始まり

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雨だった。鈍色から溢れ出る雫は私を重く濡らしていく。  目の前には木の箱。中には人。そしてたくさんの白百合。 「どうして……こんなことに……。姉さん……」  眠っているのは私の姉だ。その現実はいくら否定しても変わらない。だけど、受け入れることも出来ない。結局私は、何も出来ずそこに佇んでいた。  私は何も知らなかったのだ。姉さんがどんな事情を持って、どんなことに立ち向かっていたのか、私は知らなかった。その事実に、私は唇を噛みしめることしか出来ない。 「姉さん……姉さん……」  震える声で涙を流す。その雫は雨の雫に溶けて消えていった。  ザアアアアアアアアアア。  雨が強くなった。それでも私はそこに佇むことを辞めない。周りには私以外に神父さんだけ。彼も静かに佇んで私を見守ってくれているのだろう。それでも嗚咽が止まらずに私は泣き続けた。そのうち泣き声は雨の音に消えて、誰にも聞こえなくなっていくのだろう。  いつの間にか私はその場に崩れ落ちていた。手には金のロザリオ。神に祈っていたのだろうか。もしかしたらそうなのかもしれない。姉さんが生き返りますように。姉さんが、救われますようにと。  ……もう、これはいらないだろう。首にかけていたロザリオを外し、姉さんの首にかける。 「これを私だと思って、大事にしてね」  それを機に、私は表情を変える。泣いていた顔をやめて、棺を墓穴に納め、土をかけていく。そうだ、これが終わったら髪を切ろう。新しい自分にしていくために。髪を切ったら姉さんに、白百合の花を届けよう。そうして姉さんに、前を向いていますって言わないとね。  ――――さよなら、世界を救った姉さん。
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