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「僕がシロウさんをけしかけたようなもんなんだ。あのメールを見せなきゃ、・・・あんなこと」
「携帯はどうした?」
「預からせてくれって、シロウさんが持って行った」
「シロウさんが殺ったのは確かなのか?」
「坂崎が殺された後、シロウさんは僕からも逃げ回ってたんだ。シロウさんの家のまわりに、鳩が何羽も殺されて捨てられるようになった。沼田だよ。沼田はシロウさんが坂崎を殺したんだと気付いて、脅しに出たんだ。怖かったのかもしれない。次は自分だって」
「お互い警察を敵に回しての攻防ってわけか。この前シロウさんは、お前のことを沼田と勘違いしたんだな。それほど自分を見失ってたってことか」
「もう、終わらせなきゃ。もう・・・」
不意に電車が揺れ、由希の体が倉田の方へ倒れ込んできた。
咄嗟に支えようとして触れた肌が、驚くほど熱かった。
「由希」
「チャトラが殺されちゃったんだ」
「ああ。猫だな」
「沼田はシロウさんの大事な友達を、また奪ったんだ。もうきっとシロウさんを止められない。沼田の家を、シロウさんは突き止めてるんだ。ずっと調べてたから。・・・沼田が悪いんだ。沼田が・・・」
これはやはり警察に連絡すべき事件なのだろう。
そう倉田は思ったが、取りあえず倉田自身が半信半疑だった。
目的の駅へ電車が滑り込み、熱を持つ由希の肩を抱くようにホームに降りた倉田は、改札に向かいながら由希に言った。
「8分歩いた所に俺のマンションがある。連れて行ってやるから、お前そこで寝てろ。沼田って子の家を教えてくれたら、俺がそこに確認しに行くから。取りあえずその子が無事なら安心だろ?」
「なんで? 行くよ。僕が行かなきゃ」
「別にお前のせいじゃないんだぞ?」
「僕のせいだよ!」
由希は怒りを含んだ口調でそう言うと、倉田の手首を掴んでグイと引っ張った。
「こっち」
心細くて倉田を頼ってきたはずなのに、しっかり主導権を握ろうとしている。
けれど倉田を掴んでいる細い指は痛々しいほど頼りなく、必死に命を燃やしているように熱かった。
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