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しばらくしてマサユキの家の前に引っ越し会社のダンボールが並べられているのに気づいた。何だよ。何なんだよ。いきなり来て、いきなり消えるのか?
マサユキとはあの日以来顔を合わせていない。僕のデビューの話はどんどん進み、週末に渋谷の大きなライブハウスで歌う事になった。
でもきっとマサユキはもう笑って『おめでとう』とは言ってくれないだろう。
『マサユキ、居るんだろ?』
僕はマサユキの部屋の前でそう言った。扉越しにガタリ、と音が聞こえる。
『引っ越すの?』
彼は何も答えなかった。2人を隔てるこの扉は固く閉ざされている。
なぁ、またベランダの壁を蹴破ってもいいから、顔を見せてくれよ。変な日本語で笑わせてくれよ。
『最高の1枚、撮れたの?』
撮れてないだろう?
なぁ、マサユキ。僕さ、初めて会った時から君が羨ましかったよ。自分のしている事に自信を持っている君が嬉しかった。
『今週末、渋谷でライブするんだ。チケット入れとくから来て欲しい…』
そう言ってドアの隙間からチケットを差し込むと、しばらくして中から差し込んだチケットが引き抜かれた。やっぱり居るんじゃないか、なんて言いたかったけど僕は黙って自分の部屋に戻った。
彼がライブに来てくれないような気もしたけど、僕はギターを念入りに磨いた。
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