第1章

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『なんだよ。コメ嫌いか?』 『い、いや、そうじゃないけど…』 『あ、サイドメニューはあいにくキムチしかないが大丈夫か?』 『あ、うん……』 いや、そのキムチでキムチ鍋すればいいじゃないか!なんて思ったが僕はとりあえずこの男の奇行を見守ることにした。 『そういえばさっきアメリカって…』 『おー。俺さ、先週までアメリカ住んでて。えっと、ライフのハーフ以上アメリカなわけ。そう、だから日本語とかよく上手くない』 『そ、そうなんだ』 あぁ、だからさっきから言っていることがめちゃくちゃなのか。彼は鍋に火をかけるとダンボールから何枚か写真を取り出した。そこにはアメリカの海や空、景色が写っていて、どれも素人が撮ったようには思えない。 『カメラマンなの?』 『ああ。まぁ、食えてないけどカメラマンだよ』 彼はそう言って苦笑いしたが、胸を張ってカメラマンだと名乗った。そんな彼を見て僕は少し胸がざわつく。食っていけない。でも誇りはある。僕はどうだ?僕は胸を張って言えるのか? 『タイチは?』 『僕は……ごめん!ちょっと用事思い出したから帰るね!鍋パはまた今度!』 『ワッツ!?』 隣に引っ越してきた変人、いや、隣人は何か叫んでいたが、僕は一目散に自分の部屋に戻るとギターを抱えてアパートの階段を駆け下りた。 僕は今年で21になる。大学は中退した。ミュージシャンになるんだ。そう息巻いて親と絶縁までした。今は週5でパチンコ屋のアルバイトをしながら小さなライブハウスや路上で歌っている。 初めはいつかチャンスが転がってくると思ってた。 誰かが僕を見出してくれる。誰かが認めてくれる。でもそんな考えが甘いと気づいたのは意外にも早かった。歌っても誰も聞いてくれない日もある。でも、僕は歌わずにはいられない。それは単純だ。僕は音楽が好きだ。だから、歌わないと生きていけない。
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