第1章

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『こんばんは。太一っていいます。ぜひ聞いてって下さい』 いつも路上ライブをする駅前の広場には今日もまばらに人が集まっていた。数人の人は何度か見たことがある。僕は高校の時にバイト代で買ったギブソンのアコースティックギターを肩にかけると声を出した。 歌うのはアメリカのバンドの歌だ。正直英語は上手くない。でも、僕は小さい時に聞いた洋楽に酷く心を揺さぶられた。 『ねー、ちょっと聞いていこうよ』 『えー、早くお店行こ?』 『結構好きかも。上手くない?』 『路上ライブとか大変だよね。売れんのかな?』 歌っている最中も人の声が耳に入る。彼らの一言、一言に僕は揺さぶられる。評価を気にする。お願いだから立ち止まって聞いてくれ。僕の歌を一度でいいから。聞いて欲しいんだ…… ーカシャ え? 眩しいフラッシュとカメラのシャッター音が聞こえたかと思うと、ついさっき話していた隣人が何故か目の前に立っていた。しかも何やら僕を撮っているではないか。 『ちょ、なにして…』 『続けて!』 彼はカメラを僕に向けたまま強い口調でそう言った。僕は一瞬その強い気迫に怖気付いたが、必死に声を出して歌った。カメラのシャッターがきられる度に体が熱くなる。どんどん声が、音楽が僕の中から湧いてくるような気がした。 こんな気持ち初めてだ。
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