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僕の歌につられてか、カメラのシャッター音につられてか、どんどんと人が集まり、気づけば今まで見通せていた駅が、人の波で見えなくなっていた。
なんだこれ。
みんな僕の歌を聞いてくれてるのか?
ちらりと隣人に目を向けると、彼は親指を立て、満面の笑みを浮かべた。
『っつ…あ、ありがとうございました!』
最後のフレーズを歌いきりそう叫ぶと、今までにない大きな拍手が耳に届く。人の拍手がこんなにも自分に向けられているのは初めてだ。
『すっげぇな、タイチ!お前、ミュージシャンだったのか!?』
カメラ片手に僕に抱きついてきた隣人は、僕に向かってそう言った。そうか、僕はミュージシャンなのか。ミュージシャンと名乗っていいのか。
違う。名乗るのは自由だ。胸を張って自分のしていることが言えない奴に、夢を叶える力なんてあるはずない。
『そう、ミュージシャンなんだ』
そう言うと隣人、いや、志摩 マサユキはまた満面の笑みで親指を立てた。
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