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志摩 マサユキは変わった男だ。彼と出会って2週間、僕の生活はがらりと変わった。これは彼の登場の仕方を見ても分かると思う。
僕は終始彼のなんちゃって日本語の解読に追われていたし、ぶっ飛んだ行動に手を焼いていた。今日なんてベランダの壁を破壊して僕の部屋に遊びに来た。理由はその壁に『緊急時は破って避難を』と書かれていたかららしい。
『で、どんな緊急なわけ!?』
さすがの僕もこれには半ギレだ。
『な、なんかボイスがウィスパーしてるんだよ!』
『……もしかして、怖いの?』
真っ青な顔で頷く彼に思わず笑いがこぼれる。だって彼はお化けとかそういうの気にしそうな見た目じゃない。金髪のやんちゃそうな男がお化けにビビってベランダの壁を突き破ってくるってもはやコントの世界だ。
『絶対お化けだ。日本にはサダコってサイコ野郎が居るんだろ!?』
『君の部屋テレビないじゃん』
マサユキは半ば半狂乱になって今日の鍋で使うであろうネギで十字架を作っていた。いやいや、日本のお化けにそれは効かないと思うよ。
『それより僕、今練習中なんだけど』
僕はギターを抱えたまま冷たい目でひたすらイエスキリストの名前を呼ぶマサユキを見た。まったく、彼はズケズケと僕の日常に入り込んでくる。相変わらず路上ライブについて来るし、この前なんてどこからかタンバリンを持ち出していきなり客寄せを始めた。
まぁ、彼が来るようになってからお客さんも爆発的に増えたし、もしかしたら幸運の女神…いや、幸運のカメラマンか?
『なら俺がネイティヴなイングリッシュを教えてくれよう!』
『お、おう。不安しかないね』
『案ずるな。我に任せよ』
『マサユキ、昨日やってた時代劇見たでしょ』
彼は俺の言葉を無視するといきなりギターを取り上げ、つたない指さばきで弦を押さえた。曲は昔聞いた事がある。かなり古い曲だ。 確か…
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