離れようとする女

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「メールくれた後の商談、おかげで決まったよ」 「え?」 「ほら、次の商談もまとまりそうだって送ったでしょ?」 「あ、あの後の…」 「ありがとう」 「そんな、あたし何もしてないですよ」 当然だけど、あたしがあの時メールを送っても送らなくても、麻宮さんは同じ結果を出しただろう。けれど、それをあたしの手柄にしてくれるあたり、やっぱり慣れている感が拭えない。 「帰社したら戸部が…あ、この前のコンパの幹事ね。戸部が飲みに誘ってきたからさ、断ったら勘繰りだして。一発で加賀さんのことバレたよ」 「バレたって?」 「なんで戸部の誘いを断ったのか。ニヤけてたからすんげーわかりやすかったって。そんだけ、加賀さんと会えるのが楽しみだったってこと」 「麻宮さんは…」 「ん?」 「なんで、あたしを誘ってくれたんですか?」 ビールを右手に持ったまま、面食らったような顔をしている麻宮さん。 “そんなわかりきったこと訊くなよ”という顔だ。多分だけど、今までの経験からすると。 「そんなわかりきったこと訊く?」 「や、いや、その。なんであたしなのかな、って。普通の飲み友達としてかな、とかそれとももっと別の意味のかなとか、実はさっきから頭の中でグルグル同じようなことばっかり考えて、それで、」 あたしは何を言っているんだろう。この沈黙が何より耐え難い。 「は、ははっ。今、絶対自分でも何言ってるかわかってないでしょ?」 麻宮さんの言う通り、なぜか口から勝手に言葉が出てきて、しかもそれがちゃんとした文章になっていないという有様。文学部が強いって言っていたさっきの自分を殴りたい。 何やら、麻宮さんはツボに入ったようだけれど。 「別の意味だよ。だから、加賀さんが嫌じゃなければ嬉しいな」 「じゃあ、その、なんであたしが…」 「加賀さんがいい理由?…ない」 「え?!」 「あ、いや。悪い意味じゃなくて。直感だから」 「直感…」 「誰かを好きになるのって、直感だと思ってるから」 サラッと、とても大切な二文字を言われた気がする。 「告白は、今日の予定には入ってなかったんだけどね。まあ、言っちゃったもんは仕方ないか」 恥ずかしいせいか、はたまたお酒のせいか。ほんのり赤く染まった麻宮さんの顔に釣られるように、自分の顔が熱を帯びていくのを感じた。
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