離れようとする女

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お昼休みが終わり、スリープしているデスク上のパソコンを起こす。 先日の出来事を思い出しては自己嫌悪に陥り、今日の業務は全く進んでいない状態。手帳のto doリストのチェックボックスには、十二項目中五項目しかレ点が入っていない。 このままじゃ、昼もまともに進まない気がする。 明日できることは明日に回すがモットーのあたしだけれど、残りの七項目を明日の業務に追加する余裕はない。さらにこの後も今日の仕事は増えそうだ。 明日の残業が確定した。 突如、バッグの中で携帯が鳴る。この時間、私用の方に連絡してくる人が思い当たらない。メルマガかもしれないけれど、まさか急な要件という可能性も否めないから、念のためチェックする。 『俺がいないと寂しい?』 「バカじゃん…」 駄目だ。無視だ無視。気にしていないフリしなきゃ。 そう思っても、やっぱりすぐに誘惑に負ける。 「加賀ー。自撮りする暇があったら仕事しろー」 斜め前から刺さる主任の視線。今日のあたしのトロさ加減はこの島の全員が知っている。 「はい。もー…ちょっと」 アングルを整え、セルフタイマーを設定し顔の前で開いた手帳を見せつける。無音のシャッターが作動したことを確認し、アルバムのアプリを開く。 よし。これを送りつけてどれだけあたしが忙しいか思い知るといい。 『これ以上の邪魔はご遠慮ください。明日の業務に支障を来しますので』 添付、と。 「加賀ちゃん頼むよー。お前が綺麗なのはみんな知ってるから仕事してくれー」 「違いますよ!文句は邪魔するあの悪魔に言ってくださいよ!」 キョトンとしている主任を横目に、あたしは視線をパソコンに戻す。 離れようとしているのに、いとも簡単に引き戻す藤次郎はズルい。たった一言で、決意は揺らぐ。 「馬鹿。あたしの馬鹿。本当に馬鹿!」 「絶不調じゃん。次長と何かあったの?悪魔って次長のことでしょ?」 背後から楽しんでいる声が聞こえる。図星だから何も言わない。 「新しい恋、しようかなー…」 「珍しく前向き発言。まあ、無難な選択だと思うけど…」 真里だって、諸手を挙げて賛成はできないと思う。藤次郎とあたしがどうこうなるということは、藤次郎とあたしのこの会社での立場がなくなるということ。この会社だけに留まらない可能性だってある。 彼女は賢い。
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