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会議は順調に進み、麻宮さんとの約束の時間が迫る。ときめき半分、怖さ半分。いつもなら長引く課内会議が早く終わりそうで嬉しいような、そうじゃないような。
主要顧客が新規事業に参入するからと、新しいホームページ作成を依頼された。プロジェクトリーダーは隣の班のメンバーだから直接的な関係はない。でも、大口の顧客を担当できるのはやっぱり羨ましいと思う。
藤次郎と一緒にいたら、あたしたち二人共の将来がなくなってしまう。どの選択をすることが一番賢いのか、とっくにわかっているはずなのに。
十八時五分。会議は四十分ほどで終わった。早く行けと、課を挙げて応援されているみたいだ。
真里に急かされるままデスクの一番下の引き出しを開け、お菓子の山に埋もれたアイロンを取り出し、ポーチと共に化粧室に持ち込む。
椅子に座らされ、器用に髪を巻いていく真里の表情を鏡で盗み見ると、やはり楽しんでいる。
幸せだ。仲の良い同期であり友達でもある存在がいて、あたしの恋愛を応援してくれる。普通はそういうものだと思う。
大切な人には、味方でいてもらいたい。
「完成!本当にあんた、腹が立つぐらい整った顔してるわね」
「あら、本心?」
緊張が少し和らぐ。
課に戻って、バッグを掴み出入口のパソコン上で退社処理をする。ロビーに来たところで真里が忘れ物に気付いたので、先に外に出た。
「由宇!」
一番に視界に飛び込んできたのは、あの突然の来訪ぶりの秀次郎。相変わらず突然だった。
その少し向こう側に視線を移すと、今一番逢いたくない人が見覚えのある女性と一緒にいた。
シュウを無視し、その女性に向かって小さく会釈をして考える。どこで会ったのか。隣の藤次郎を見ても、こちらを呆然と見ているだけ。ヒントはくれそうにない。
仕方なく二人の方に向かっていく。麻宮さんとの約束まで、まだ少し余裕があった。
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