離れようとする女

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「由宇ちゃんだよね。私のこと、覚えてくれてるの?」 「実は…お会いした記憶はあるんですけど、細かくは…ごめんなさい」 面食らったような表情をしてすぐ、その女性は笑った。 「いいえ。そんなにすごく絡んだわけじゃないから仕方ないよ。答えは藤次郎に訊いてみて」 藤次郎と親しいと思われる彼女は、その後一言二言、藤次郎と言葉を交わして帰って行った。と同時に、真里が小走りで駆け寄ってくる。 「お待たせ。次長、お疲れ様です」 「ああ。お疲れ」 「由宇、行こう。遅くなっちゃうよ」 「秀次郎、ごめん。何か用事だったの?」 ここにきてようやく、秀次郎。さすがに少し申し訳なかった。 「相変わらず冷たいな。飯でも行こうかと思っただけ。でも、先約だよな」 「あ、うん。せっかくだけど…」 わかった、と秀次郎は苦笑いを浮かべて背中を向ける。あたしは真里に手を引かれ反対方向へと体を向ける。 「失礼します」 聞こえていなかったのか、藤次郎は答えなかった。なんだか悪いことをしている気分になって、真里の隣に並んで歩き出す。 これでいい。これが、当たり前の日常なんだ。
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