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鋼の包丁が家に一丁ある
それを研ぐのはいつも兄の役目で
兄は祖母から研ぎ方を教わったのだという
確かに祖母は愛用の包丁達を、いつどれを見ても鋭く鈍く鋼の輝きを放つようにしていた
幼い私の耳に残る砥石と鋼が摩れ合う音
いつも嫌いだった
悲鳴にしか、聞こえなかった
シャッシャッシャッ
一定のリズムで、悲鳴は聞こえた
悲鳴が止むと、祖母の無骨な手がするりと掲げた包丁の腹を撫でる
その仕草が、何故か怖かった
ぽとり、ぽとり、と水滴を落とす包丁が、ぬるりと光ってた
兄は、祖母に教わって十年が経った今でも、祖母と同じ研ぎ方をする
祖母よりも綺麗な細い兄の手を、するりと、薄く薄く研ぎあげられた刃が撫でた
目を丸くして兄は、はにかんだ笑顔で「あほやな」と言った
おれ、あほやな
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