悪夢

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 何故、私がそんな『事故物件』の部屋があるアパートに住み続けているか?  答えは単純。他の物件に比べてお家賃が格安だからです。  当時、今よりもずっと薄給だった私はとにかく安い物件がないかと不動産屋さんに泣きつき相談した所、この物件を紹介されたのです。前の住居者は隣の部屋で一家無理心中事件が発生したという理由で事件後すぐに部屋を出てしまったこと。そしてその際、引っ越しまでの僅かな期間ではあったが特に気になる様な怪奇現象は確認できなかったこと。などといった趣旨の説明を懇切丁寧に受けました。  不動産屋に勤める大の大人が真面目な顔をして『怪奇現象』などと言う単語を口にしているのです。当時の私は笑いを堪えるのにもう必死でこの時のやり取りは今でもとても印象深く心に残っています。  私は幽霊という存在に対して今も昔も半信半疑です。頭ごなしに否定もしなければ、鵜呑みにもいたしません。  しかしながら、ホラージャンルの本や映画は創作物として大好きであった為『事故物件』というものにはとても興味がありました。その翌日、私は不動産屋さんと一緒にこのアパートを視察。部屋の間取りや立地の良さ、格安のお家賃と不動産屋さんの巧みなセールストークに負けて契約書に判を押すことになったのです。  ちなみにその時に事件の発生した隣の『201号室』もついでに視察。更に破格のお家賃での熱烈なプッシュもありましたが……さすがの私も実際に事件の起きた部屋で暮らす勇気は御座いませんでした。コメント欄で「このチキンがッ!」と罵ってくださって結構です。ゲーム業界に勤める人間は総じてM(マゾ)なのでとても興奮します。  私が事件のあった部屋『201号室』に足を踏み入れたのはこの時の一度きりです。その時は特に怪しいものを目にしたり、奇妙な気配を感じたりすることもありませんでしたが、完璧にリフォームされた綺麗過ぎる部屋の内装が逆に怖かったという印象を受けました。
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