悪夢

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 あれは、そう確か東日本大震災があったその翌月のことだったと記憶しています。休日、ネットのニュースサイトで原子力発電所に関する記事を追っていた時にインターフォンが鳴ったのです。玄関の扉を開けたら私と同じくらいの年齢の男性がお土産袋を片手に立っておりました。聞くところによると引越しのご挨拶とのこと。わざわざ土産物まで持参して、礼儀のしっかりした方だなという印象を受けました。それと同時に「うわ、そういえば私は引っ越しをしてきた時に他の住居者の方々にこうして挨拶へ行っていなかったな……」と、深く反省したのをよく覚えています。  ああ……  私が確実に記憶しているのはここまでです。  正直に申し上げましょう。  ここから先の男性との会話は私も混乱してしまった為、正確には覚えておりません。細部が少し事実と異なるかもしれませんが、その時の会話内容を記憶の限り書き記したいと思います。 「ありがとうございます。こんなタイミングでお引っ越しなんて大変ですね」  そう……男性からお土産を受け取った私は確か男性に対してこのような軽いご挨拶程度のお話を持ち掛けました。 「はい、地震には本当にビックリしちゃいましたよ。でも前のアパートの契約が今月末で切れちゃうんで仕方なくです。本当は先月末にもう契約は切れてたんですけど、何とか無理を言って延長させてもらって……」  男性は私と違いコミュニケーションを積極的に取られる人間のようで、ここで少し震災の話をしたと記憶しております。震災時は何処にいた……とか。ガソリンが買えなくて大変だ……とか。そんな他愛のない話をしたとぼんやりですが記憶しています。そして最後に男性はこの様な台詞を口にしたのです。 「これからお隣同士になりますが、よろしくお願いします」、と――
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