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「……ぷっ」
思わず吹き出していた。
どうしよう、堪えられない。
真歩はその不似合いな向井の防寒具に笑ってしまっていた。
「‥‥‥‥‥フン」
向井が不機嫌な顔をして、真歩を見る。
「ご、ごめん。いや、似合わなくて……っっあはは」
向井は普段からシャツにラフなテラード襟のジャケットを羽織っていた。
昼間の講義はネクタイを締めているけれど、だいたいこの時間は外している。
シャツの色は黒や紺、茶色といった落ち着いたものが多い。
それにシャープな輪郭と細く鋭い目が付け加えられて、無口でクールな印象を作っているのだけど、腰に巻かれた薄いブランケットと白い綿でモコモコしたスリッパはその印象を壊すくらい強烈で、目の前に居る向井は可愛いとしか言いようがない。
しかもノルディック柄なのが、なんともいえない。
「なんで、その柄?」
真歩は笑いながら、尋ねる。
「木戸に頼んだら、コレを買ってきた」
あのにこにこ笑顔の彼か。
確かに彼ならこの柄が似合いそうだった。
向井はどうやら、このネタで笑われることに慣れているようで、真歩の笑いを気にせず流した。
「寒がりなの?」
「ああ、冷え症なんだ」
この男の弱点を見つけたような気がして、ちょっと楽しい。
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