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向井の行動に驚いて、言い返すタイミングを失ってしまった真歩は眉間に皺を寄せながら、向井を見た。
向井はその視線に気付いたのか、真歩の方を敢えて見ず、今まで自分が座っていた位置を顎で指す。
「あの位置、何気に寒い」
「……は?」
「お前がそっちに行け」
向井は意地悪そうに笑ってみせた。
「な、なんでよ! ずっとここが私の定位置でしょ?」
その表情に少しムッとして、言い返す。
「あっそ」
向井はそのまま何も言わず、椅子の位置を変えることもせずに、また本を読みだしてしまった。
う……。
まただ……。
何故かまた、大嫌いな男と至近距離………。
でも、別に嫌じゃない……。
それに、向井が隣に座ったからか、隙間風が当たらなくなり、この空間が温かく感じる。
寒い時期にひと肌が恋しくなるのはきっとこういうことなんだ。
別にこの男だからってことじゃない。
単に寒いだけ。
真歩は出来るだけ向井の存在を気にしないようにして、勉強に取り掛かることにした。
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