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「座れ」
「………は、はい」
向井に促されて、椅子に座る。
「もう遅いから、今日はP25、26だけ復習」
「‥‥はい」
促されて問題集を開く。
「このページ」
「はい」
促されて、問題を解き始める。
「寝るぞ」
「…………はい」
そんな調子のまま、向井に促されて、勉強の後はソファに添い寝して寝転んだ。
抱かれるかもしれないと緊張したけれど、向井はただ抱き締めるだけで、それ以上は手を出してこなかった。
なんだか自分はどうかしている。
ずっと大嫌いだと思っていた男に、すんなりと従わされて、しかも嫌悪感を抱いていない。
そればかりか、逆にこの状況に心地良さを抱いてる。
でも、向井に素直になれないのはきっと傷付きたくないからだ。
大学1年の夏のあの言葉が歯止めを掛けて、心の奥底にある防壁をまだ頑なに閉じているから。
向井が思っていたよりも、非情ではないこと。
優しさがあること。
自分のことを少なからず心配してくれていることも、本当は分かっている。
でも、傷付くことを恐れてまで、向井に素直になる勇気は無い。
向井の腕の中で、真歩は小さくなって、身体を少し強張らせた。
すると向井に優しく背中を撫でられる。
「元旦、初詣に行こう」と向井は静かにそう言った。
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