3264人が本棚に入れています
本棚に追加
※
教壇で授業をしている向井の声は、現在と違う時間軸の声に聞こえていた。
授業を受けている生徒達の姿は、自分とは別世界に居るように感じていた。
ダンス仲間たちの見下すような目。
薄笑いを浮かべた口元。
非難する声。
真歩の脳裏をそれらが支配していた。
目の前に座っている生徒達がこそこそ話をして笑っている。
自分のことを笑っているわけがないのに、無様な自分を笑われているような気がして。
大学1年生の夏、ダンスイベントで失敗した真歩は、教室の隅でさらに縮こまった。
自分なりの安定した将来を予定して、昔から興味があった照明や音響の仕事をしようとこの大学に入学したのに、ダンサーになりたいなんて無謀な夢を願ってしまった自分。
でもあっさりと、同じダンサーを夢見る仲間から、夢への希望を踏みつけられた。
自分の夢は本当に儚い。
地べたを這いつくばって踏まれて慌てているアリが、大きな像になって踏み返してやりたいと到底叶わない夢を描くようなもの。
『あの子、アレで踊れた気になってたら、マジ無いんだけど?』
『ダンサーになる気あるの?』
ダンス仲間達の声。
ダンサーになりたい気持ちはある。
でも、踊れない……。
踊れなかった……。
「神崎」
夢を掴む資格、自分には無いの……?
最初のコメントを投稿しよう!