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その音は聞き覚えのある方程式だった真歩はこの状況を回避しようと抵抗する。
「そ、それは、お、覚えてる・・・・・」
だけど、向井の身体は離れてくれない。
「じゃあ、∂f/∂t+v.∂f/∂r+F/m.∂f/∂v・・・・」
デルティーブンノデルエフプラス‥‥。
囁かれた音がまたすんなりと脳に響いて、頭の中で繰り返している自分がいる。
「声に出して繰り返して」
「∂f/∂t+v.∂f/∂r+F/m.∂f/∂v・・・・」
言われるがままに数式を答える口。
緊張にも似たクラクラする意識の中で数式がぐるぐる頭の中を回っていた。
向井の「正解」という言葉の後、息継ぎする間もなく、すぐに次の方程式が脳に響いた。
「‥‥‥インテグラル?‥‥オメガ?」
さすがにその方程式は聞き覚えがなくて、繰り返すことができなかった。
「じゃあ、書いて」
向井は真歩の右手に鉛筆を持たせると、今度はその右手もロックした。
「声で繰り返しながら、ノートに書いて」
向井が囁く方程式が呪文のようで、真歩は魔法に掛けられたかように方程式を読み上げながら、ノートに書き込む。
分からなくなり、手が止まると、向井がまた方程式を囁き、真歩の手を動かして、方程式を書かせた。
ノートに書き込まれた数式が向井によって繰り返されていくうちに、真歩の記憶の中に方程式や定理が組み込まれていく。
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