第1章

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まずは俺の部屋の右隣さんちのインターフォンを押す。 表札には【藤堂】と書かれている。 なんだか立派な名字だ。 てか・ ・ ・ ・ ・ ・ いないのかな。 念のためもう一度だけ鳴らしてみようと腕を上げかけたところでカチャリと鍵を解錠する音が聞こえた。 ゆっくり、細く、それはもう細い隙間から覗く目らしきもの。 「なんですか」 その細い隙間から放たれた無愛想な声。 一瞬金縛りにあいかけたけど、最初が肝心なんだと己の心に克を入れ笑顔を作り直す。 「初めまして!隣に越してきた柳川(やながわ)っていいます。これ、大したもんじないんですが引っ越しのご挨拶です」 ずいっと菓子折りを差し出したは良いものの、なんせ開けられた隙間が細すぎて入る余地が無い。 どうしたもんかと思いを巡らせていると、 「ご丁寧にどうも」 の声と共に瞬速でドアが僅かに大きく開き、そこから伸びた手が菓子折りをひっ掴んで再びドアは閉じられた。 2秒はかかっていなかったと思う。 「こ、これからよろしくお願いしまぁす」 小さく声をかけ、気を取り直して次に向かうことにした。
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