第1章

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でも、やっぱり3人しか住んでないアパートで一人だけ仲間外れってのは気が引けるもので、結局俺は3人の蕎麦を茹でて、一人分だけ別皿に盛ると麺つゆも付けてお隣さんに向かった。 菓子折りも受け取ってくれたんだから蕎麦も受け取ってくれるはず。 薫は心配そうに「やめとけよ」って言ったけど、俺は笑いながら「大丈夫大丈夫」って言いながら部屋を出た。 そして本日2度目の藤堂さんちのインターフォンを鳴らす。 ガチャ 「はい」 相変わらずめっちゃ細い隙間だ。 てか今度は蕎麦だからさっきみたいな瞬速掴み取りは出来ないわけだけど、どうするんだろ。 「度々すみません、あの、引っ越し蕎麦作ったんでもし良かったら召し上がってもらえたらと・・・・・・」 「・・・・・・・」 「あの、ご迷惑でしたよね?すみません」 「いえ・・・・・・ご丁寧にありがとうございます」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 恐らく藤堂さんは悩んでいる。 蕎麦を受けとる意思はある。 だが、受けとるにはそれなりにドアを大きく開けなきゃならない。 顔は見られたくない。 でも蕎麦だからさっきのようにするわけにはいかない。 どうする?みたいな? どのくらいそうしてただろうか。 細い細い隙間から小さな溜め息が聞こえ、やがて諦めたようにゆっくりドアが開いた。 「!!」 藤堂さんの顔は所々紫色に腫れ上がっていて、来ているパーカーには血みたいなもんが付着していた。 「だ、大丈夫ですか!?」 「大丈夫です。ありがとうございます」 それだけ言うとサッと蕎麦を俺から受け取りすぐにドアを閉めてしまった。 てか、大丈夫じゃないだろあの怪我。 ソワソワしながら自室に戻ると、薫が蕎麦の前でお預けされた犬のようにじっと待っていた。 「太一ぃ~腹減ったよ~」
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