住良木の 『朝の仕事』

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住良木の 『朝の仕事』

「住良木君、時間通りね。いきましょう」 「はい、真奈美様」 「真奈美様はやめてよ、はずかしいじゃない」 「それでは、マニュアル通りに、お嬢様と?」 「そうねぇー、住良木君だったら、『ちゃん』付けでいいわよ」 「それでは、真奈美ちゃん。少し飛ばしますよ」 「どーぞー」 住良木は、少し笑い、アクセルを一気に踏み込んだ。 今日の朝の任務は、真奈美ちゃんを無事に自宅まで送り届ける事。 真奈美ちゃんは、ある企業のトップの令嬢なのだ。 令嬢と言っても、社長の娘ではなく、姪だ。 両親を亡くした、姉弟を、叔父である社長が引き取ったのだ。 そして、住良木の女ではない。 今は、住良木のボス的存在である。 住良木は、通常はある施設の、警護に当っているのだが、 大きな事件があるとシフトを離れ、単独で、 事件の始末をするのだ。 真奈美ちゃんは、企業の重役候補と結婚し、養子を取っている。 住良木は、これ以上のことは、知らなかった。 誰が見ても日本人離れした、この真奈美ちゃんに、 惚れることだろう しかし、住良木はそんなことは思わなかった。 なぜなら、真奈美ちゃんには、あまり色気がないからだ。 それに、誰もが、真奈美ちゃんを… 恐れているからだ。 真奈美ちゃんは、パートの夜勤を終えて、 家に帰る足代わりに、住良木を使っている。 住良木の、朝の仕事が終わるようだ。 「真奈美ちゃん、次回はいつお出迎えに?」 「明日の夜に、お願い。9時ごろね」 「かしこまりました」 「あ!そこは、『うん!いいよ!』で、ね!」 「うん!いいよ!それじゃね、真奈美ちゃん!」 住良木はさっさと、昼の仕事に向かった。 住良木は、 恥ずかしい自分と、 真奈美ちゃんに逆らうと、どんな仕打ちが待っているのか を、天秤に掛け、 童心に戻る方 を、取っただけである。
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