第21章 たしかにここに「好き」がある

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「礼が、達川さんと話しているとイライラした」 うん。 それがヤキモチっていうんだ。 常葉の頭の中にある辞書にだって、その言葉の意味が入ってるだろ? 「私には入れない会話で、笑って、楽しそうで、た、達川さんが礼といるのを見てると、毎回、井出さんにどうしたの? って、尋ねられるくらい変な顔をしていた」 「……うん」 「それと、私達ワニは、その……」 常葉が言いかけて、言葉を止めるのはかなり珍しい。 いつだって姿勢と同じに真っ直ぐ言葉を口にするのに。 「その、ワニは性成熟が、その」 夜道でもわかるくらい、常葉の頬が真っ赤になっていく。 「性成熟が遅いから、まだ、私はその……でも、レッサーパンダは早いから」 まだ、願いは叶っていない。 叶っていないけど、でも、ねぇ、これはほぼ叶ったって思ったら、ダメ? 「もう、本当は心に決めた人がいるんじゃないかと思ったんだ」 その「心に決めた人」を探そうと、仕事終わりにレッサーパンダに話しかけてたの? その人が自分だとも知らずに? 「俺は常葉だけだよ」 「……」 「常葉がすごく好きだったんだ。ワニだった時からすごく好きで、君と一緒になりたくて神様にお願いをした」 「え?」 「ごめんな」 ランドの立て直しをするため、が本当の理由じゃない。 それは俺の心から願ったことじゃない。 もっとすごく自分のためだけだったんだ。 本物の王子のように誰にでも優しい常葉と違う。ランドのことなんて、二の次、三の次だった。 「私はっ、優しくなんてない、誰にでも優しいわけじゃない。た、達川さんのこと好きじゃないし、意地悪するつもりだったわけじゃないけれど、でも、どうしても彼女と話したくなくて、スーパーで、すごく」 あぁ、そういえば、布団を買おうとしていた時、一緒に暮らしてるんですって達川さんに即答したのは常葉だったっけ。 俺はルームシェアには似つかわしくない気持ちを抱えてたから即答できなかった。
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