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瞳の色、黒なんだと思ったのに、濡れて光る瞳はとても綺麗で、何もかもが吸い寄せられたんだ、きっと。
月の光が全てそこに吸い込まれたに違いない。
「ワニさんの目、金色」
「え?」
「目が、金色、ワニ色? とにかくすっごく綺麗だ……」
褐色の肌に金色の瞳、まるでお伽噺に出てくる王子様だ。
お伽噺なんて読んだこと一度もないのに、どうしてか頭の中でおだやかな声が朗読してくれる。
――ある所に王子様がいました。
そんなナレーションがワニさんを見つめていると聞こえてくる気がする。
こんな人が白馬に跨って現れたら見惚るなぁなんて思ってしまう。
「わけないじゃーん! あっぶね! 危ない! なんか、危なかった!」
「え?」
後ろへカエルのようにジャンプして、キラキラ眩しいワニ色の瞳から遠ざかる。
この眼の射程範囲にいては危険だと、元レッサーパンダの本能で判断した。
まず、全裸だから!
ふたりとも全裸のまま抱き合うみたいな、超危険シチュエーションだから!
銀色の輝く髪、っていうか、毛は下にもくっついてるから!
「あ、あの、君は? 私は、一体全体」
どういうことなのか、そう言いたくなるよね。
戸惑うよ。
そんなふうに戸惑う元ワニの美女を抱き締めキスして、好きだって告白して、番になりたいって願っていたんだ。
だって、君はとても綺麗だったから。
こんなに綺麗な生き物がこの世にいるのかと思うほど、とても美しいと思ったんだ。
「あー……君は人間になったんだ。ほら、僕もだけど、君も人間の身体だろ?」
「あ!」
本当だと驚いて、銀色の睫を瞬きさせながら星をこっちに飛ばしまくる王子様。
「私が、人間?」
自分のこと私なんて言うんだな。本当にマジの王子様みたいだよ。
「そう、んで、僕は元レッサーパンダ。ほら、あそこに空っぽになった檻が見える?」
ワニさんは「あぁ」と小さく頷いて、空になった檻を覗き込むように、長くてスラリとした首を伸ばす。
その喉にはしっかりと喉仏があった。
人間の成人した雄にはしっかりとくっついている喉仏。って、そこじゃないとこでしっかりと雄ってことは確認したけどさ。
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