第2章 雄ですけど!

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瞳の色、黒なんだと思ったのに、濡れて光る瞳はとても綺麗で、何もかもが吸い寄せられたんだ、きっと。 月の光が全てそこに吸い込まれたに違いない。 「ワニさんの目、金色」 「え?」 「目が、金色、ワニ色? とにかくすっごく綺麗だ……」 褐色の肌に金色の瞳、まるでお伽噺に出てくる王子様だ。 お伽噺なんて読んだこと一度もないのに、どうしてか頭の中でおだやかな声が朗読してくれる。 ――ある所に王子様がいました。 そんなナレーションがワニさんを見つめていると聞こえてくる気がする。 こんな人が白馬に跨って現れたら見惚るなぁなんて思ってしまう。 「わけないじゃーん! あっぶね! 危ない! なんか、危なかった!」 「え?」 後ろへカエルのようにジャンプして、キラキラ眩しいワニ色の瞳から遠ざかる。 この眼の射程範囲にいては危険だと、元レッサーパンダの本能で判断した。 まず、全裸だから! ふたりとも全裸のまま抱き合うみたいな、超危険シチュエーションだから! 銀色の輝く髪、っていうか、毛は下にもくっついてるから! 「あ、あの、君は? 私は、一体全体」 どういうことなのか、そう言いたくなるよね。 戸惑うよ。 そんなふうに戸惑う元ワニの美女を抱き締めキスして、好きだって告白して、番になりたいって願っていたんだ。 だって、君はとても綺麗だったから。 こんなに綺麗な生き物がこの世にいるのかと思うほど、とても美しいと思ったんだ。 「あー……君は人間になったんだ。ほら、僕もだけど、君も人間の身体だろ?」 「あ!」 本当だと驚いて、銀色の睫を瞬きさせながら星をこっちに飛ばしまくる王子様。 「私が、人間?」 自分のこと私なんて言うんだな。本当にマジの王子様みたいだよ。 「そう、んで、僕は元レッサーパンダ。ほら、あそこに空っぽになった檻が見える?」 ワニさんは「あぁ」と小さく頷いて、空になった檻を覗き込むように、長くてスラリとした首を伸ばす。 その喉にはしっかりと喉仏があった。 人間の成人した雄にはしっかりとくっついている喉仏。って、そこじゃないとこでしっかりと雄ってことは確認したけどさ。
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