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とりあえず人間になってしまったので、ワニの檻にふたりして入っているわけにはいかない。
神様が教えてくれたとおりに飼育員が出入りしていた扉を開ける。
そこには少し幻想的な光景があった。
神様がわかりやすいようにと着替えのある部屋までの道しるべを廊下の床に作ってくれていた。
点々と続く青白い光を辿って歩く。
とても不思議な感覚だった。
見ている世界の高さが違う。
レッサーパンダの時に聞こえていた音が聞こえない。
自分が歩く度に人の足音がする。
ペタ、ペタ、ペタペタペタ……ペタ
そのちょっと耳慣れない足音を自分が出しているんだと思うと不思議で、少しだけ、止まってみたり、早く細かく歩いてみたり、音で遊んでいた。
「ここで、光が途絶えてる」
ワニさんの声に顔を上げると、そこには扉があった。
今度はもっとしっかりと大きな光が曇りガラスの向こう側を明るく照らしてる。
「ここに入れってことみたいだね」
「え? あ、あの」
戸惑っているワニさんを後ろに控えさせてドアを開けようと手を伸ばしたら、カチャリと金属音がして勝手に開いてしまった。
ちょっと怖いけれど、一歩足を踏み出すと、待ってましたと言わんばかりに部屋を点す光が強くなった。
明るくなった部屋の真ん中には綺麗にたたまれた服が二着置いてある。
「あの服を着ろってことだろうね。全裸のまんまじゃここから出られないし、出たら、今度は捕まって人間用の檻に入れられちゃう」
「あぁ、たしかにそうですね」
ワニ王子、なんちゃって。
明るい部屋の中で見ると髪の毛は銀色じゃなかった。
色素は薄いけれど、緑がかっていてオリーブ色って言ったほうが近い。
オリーブがどんなものか、それがどんな色なのかも今、この瞬間、イメージするまでは知りもしなかったけれど。
この色は、と少し考えただけで、脳内にプカッとオリーブが浮かび上がってきた。
ワニ王子が真剣な眼差しで服を睨みつけている。
きっと俺と同じ感覚にまだ慣れていないんだ。
人の手で何かを掴んだりすることも、頭の中、もっと奥のほうの引き出しに神様がしまっておいてくれたんだろう、山のような知識が何か行動を起こす度に、思考する度に浮かび上がって身についていく感覚も。
せわしなくて、そりゃ綺麗な顔をした王子でさえ、眉間に皺が寄る感じ。
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