第4章 この手

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ワニ王子が服を着た。 ワニ感はないのに、王子感は残っていて、考え込んでいる姿すら絵みたいに思えた。 考え事をする時に顎に手を置くのは、推理ドラマの探偵くらいだと相場が決まっている、らしい。 知識からだとそうなっている。 実際に見たことがあるわけじゃないから、まだ身に付いてはいないけど。 「名前、何がいいだろうか……」 悩ましいワニ王子、ってタイトルの絵画。 「レッサーパンダ君は? 何にするの?」 「え?」 王子か、もしくはどっかの貴族。 「名前」 雄って、男ってわかっているのに、つい見惚れてた。 だって、見てくださいと言わんばかりの鱗色の髪に褐色の肌。 それに今椅子に座って、腕を組んで悩ましげに目を伏せる、そう、この角度、ここからだとずっと瞳の色がワニ色なんだ。 見惚れるよ。 お互いに、男、だけどさ。 「僕ね、飯田(はんだ)って名前がいいかと思って。飯田、下の名前は、うーん、やっぱり、レッサーだから礼(れい)かな」 適当につけた。 レッサーパンダの時にも名前があったんだ。 あまりよく覚えてないけれど、茶何とかだった気がする。 お客さんが読んでいてもあまり耳が反応しなかったし、ワニ王子を眺めてばかりだったから、ちゃんと覚えてない。 「礼か……素敵だな」 「あ、ありがとう」 「礼、飯田礼」 はい、と心の中で返事をした。 綺麗な澄んだ声だったから返事で邪魔をしたくなかった。 低いけど威圧的なところがなくて、耳に心地良く響く声。 「私は、何がいいかな……」 「そうだなぁ、そしたら」 綺麗な緑色の髪、ワニの時の色をそのまま身体に残していて、人間なのに、どこか人間っぽくなくて、それが王子様感を出しているというか。
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