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ワニ王子が服を着た。
ワニ感はないのに、王子感は残っていて、考え込んでいる姿すら絵みたいに思えた。
考え事をする時に顎に手を置くのは、推理ドラマの探偵くらいだと相場が決まっている、らしい。
知識からだとそうなっている。
実際に見たことがあるわけじゃないから、まだ身に付いてはいないけど。
「名前、何がいいだろうか……」
悩ましいワニ王子、ってタイトルの絵画。
「レッサーパンダ君は? 何にするの?」
「え?」
王子か、もしくはどっかの貴族。
「名前」
雄って、男ってわかっているのに、つい見惚れてた。
だって、見てくださいと言わんばかりの鱗色の髪に褐色の肌。
それに今椅子に座って、腕を組んで悩ましげに目を伏せる、そう、この角度、ここからだとずっと瞳の色がワニ色なんだ。
見惚れるよ。
お互いに、男、だけどさ。
「僕ね、飯田(はんだ)って名前がいいかと思って。飯田、下の名前は、うーん、やっぱり、レッサーだから礼(れい)かな」
適当につけた。
レッサーパンダの時にも名前があったんだ。
あまりよく覚えてないけれど、茶何とかだった気がする。
お客さんが読んでいてもあまり耳が反応しなかったし、ワニ王子を眺めてばかりだったから、ちゃんと覚えてない。
「礼か……素敵だな」
「あ、ありがとう」
「礼、飯田礼」
はい、と心の中で返事をした。
綺麗な澄んだ声だったから返事で邪魔をしたくなかった。
低いけど威圧的なところがなくて、耳に心地良く響く声。
「私は、何がいいかな……」
「そうだなぁ、そしたら」
綺麗な緑色の髪、ワニの時の色をそのまま身体に残していて、人間なのに、どこか人間っぽくなくて、それが王子様感を出しているというか。
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