第4章 この手

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「じゃあ、さ、オーストラリアワニだから、漢字で書くと豪だよね。丹羽豪(にわたけし)は?」 「えぇ? ちょっと……イヤだ」 だよね。 っていうか似合ってないし。 少しだけワニ王子の困った顔が見てみたかっただけなんだ。 涼しげな目元は困った時、どんなふうになるのか、不満がある時、その唇がどんなふうにへの字に曲がるのか。 「ごめんごめん、嘘、冗談」 「? 冗談、だったのか?」 結果は、なんか、可愛かったな。 相手はちゃんと男なのに、股間にあるものはちゃんと確認したのに、なんか可愛いとか思った。男、だけどね。 「よしっ、じゃあ……君の容姿を基に考えよう」 「そ、そうなるとどうなるんだ?」 まさか鱗、なんて名前になるんじゃないだろうな、って心配してたりして。 俺は神様じゃないから、あの小さなねずみみたいにワニ王子の心の中は読めないけど、表情が少し怪訝な感じで、そんなことを心配していそうだった。 「うーん、そしたら……髪の色が綺麗な緑がかった色してるから、青丹常葉(あおにときわ)っていうのは、どっちも緑色のひとつだよ。ちょっと、なんか珍しい名前だけど、君、すでにその髪の色的に変人だから大丈夫でしょ」 我ながら、良い名前だと思うんだけど。 「飯田礼と青丹常葉」 俺達の名前。 「宜しく、常葉」 人間に変身させられたはずなのに、なんでか人とは思えない気品ある君にぴったりの名前だと思う。 緑色の和名から取ったんだ。 もちろん、今まで、そんな緑の和名なんて知るわけがない。 でも、君に似合う名前はなんだろうって考えたら、胸のうちにポコッと浮かび上がってきた。 神様が詰め込んでおいてくれた知識の欠片がまたひとつ身になって、そして君の名に変わった。 「礼」 「?」 「ありがとう。とても素敵な、綺麗な名をくれて」 「いえいえ、どういたしまして」 常葉が微笑む。 それだけで、また、星がその絹糸みたいに美しい睫の端から零れる気がする。
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