第1章 かかって、恋。

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何、この頑固親父みたいなキャラクターの神様。 でも、その怒る声がものすごく甲高くて、迫力がないどころか、すっごい間抜。 「間抜けではないわ!」 「!」 「あ、そうそう、ひとつだけ条件を出す」 「条件?」 小さな体、それ以上に小さな手 もっともっと小さな指を一本、ピンと立てて「よいか?」と甲高い声を上げた。 「ただでお主の願いは叶えてやれぬ。働いてもらうぞ?」 「え?」 「ここのランド、ワニランドは経営不振、閉鎖寸前じゃ。それを三ヶ月以内に立て直すこと」 「はぁ?」 「大丈夫じゃ。わしは親切な神様じゃから、お主の頭の中にはすでに人間で暮らすのに充分すぎる知識を詰め込んでおいた。それをフル活用すれば難しいことではない」 もし、もしも、三ヶ月以内に立て直すことができなかったら、どうなるんだよ。 この胸の内だけで呟いたことも目の前にいる神様には筒抜けだったらしい。またニヤリと笑い、もっと指をピーンと突き立てた。 「元のレッサーパンダに戻る」 「!」 「もちろん、お主の恋のお相手もじゃ。つまりはお主が神様にうるせーぞ、ボケ! と、怒鳴られるくらいに願ったことは泡のように消えてしまうわけじゃ」 「……」 この恋が消えてしまう。 叶わなくなる。 「わかったな。ランド立て直し、頑張るのじゃよ?」 「わ、わかった」 「よし、ではお主の恋のお相手のところに行こうかの。あ、鍵は開いておる、サクッと出て来い」 ねずみの大きさなら通れるだろうけど、こんなでかい身体、どうやって通ればいいんだよ、と思ったことも神様には聞こえている。 絶妙なタイミングでそう教えられ、本当に? と疑いながら檻のドアに手をのばすと、金属の軋むような音が静かなランド内に響き渡った。 「あ、開いた……」 レッサーパンダの時に一日中眺めるだけだった外、行き交う人間をボーっと見送っていた、その人間が歩いていた場所に今、自分がいる。 「ほれ、こっちじゃ」 「あ、うん」 裸足だからコンクリートの上を歩くと、ペタペタと足音がした。レッサーパンダの時とは違う足音。
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