第1章 かかって、恋。

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「ほれ、レッサーパンダよ、いくぞ」 目の前には大好きな……ワニ。 綺麗な鱗に綺麗な瞳、静かに一日中じっと佇む姿はひと目見た瞬間から視線を外せなくなるほどだった。 「お、お願いします」 「ホントにお主は変わり者じゃの……」 「神様! 早く!」 「わかった、わかった。あ、それとお主達の必要なものはすぐそこ、非常灯の下、飼育員が出入りするドアを開けて、少し行った先の部屋に用意した。青い光でわかりやすくしてあるからの」 「わかったから! 神様!」 すごく綺麗なんだ。 だから、早く会わせてよ。お願いだ。 「よし、それでは、ちちんぷいぷーい!」 嘘くさい呪文のような言葉を甲高い声で叫び、小さな指先を空へとかざし、キィィィ! と絶叫した瞬間、想い人ならぬ、想いワニへと振りかざす。 そして、一瞬で白い煙が立ち込めた。 じっとしていたあのワニが少しだけ驚いたように、金色の目を見開いたのが見えた。 「ワニさん!」 「大丈夫じゃ」 名前も知らないワニさんをもう一度大きな声で呼ぶと、その声に白い煙が吹き飛ぶように消えていく。 「あっ……」 現れた人影が、満月の明かりに照らされ、白い煙が全て消え現れたのは人。 「これが……」 色素の薄そうな髪は、美しい月明かりに照らされて、光り輝く絹糸だ。 スラリと長い首筋をくすぐる髪の先は繊細そうで、思わず見入ってしまうほど。 そしてその銀髪に近い髪がよく映える肌は褐色。 全身が綺麗な褐色で、その身体には―― 「ほうほう、べっぴんさんじゃのぉ」 「お、おおお……」 「ワハハ、想い人がべっぴんすぎて声も出ないか。そうじゃろ、そうじゃろ」 「おおお」 その褐色の裸体には。 「雄なんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!」 自分の股間にぶら下がっているものと同じものをぶら下げた雄の元ワニさんがいた。
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