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本気でとっ捕まえようと手を伸ばした瞬間、ねずみの本領発揮で、チュチュチュ、と小さな鳴き声だけを残して、逃げてしまった。
それこそ、レッサーパンダ時代だったら、捕まえられたかもしれないけど、人間は案外身体が重い。
ねずみの動きにはついていけないし、レッサーパンダの感覚が残っているせいで、余計にもどかしい。
「おいっ! 神様!」
「アハハ、がんばれー!」
「って、まじで! おいっ!」
檻の端っこ、二本の鉄格子の間でチラッと振り返った、小さなねずみの神様が、細長い尻尾を手の代わりにして俺達に二度大きく左右に振ると、確実に、目の錯覚じゃなく確実にっ、ニヤリと笑った。
「ちょ! 待てよ! って、うわぁぁぁ!」
観たこともないけれど
なぜか脳内にある知識のおかげで、この台詞って恋愛ドラマチックじゃない? なんて、思いつつも、檻から逃げ出してしまうねずみの神様に手を伸ばした。
でも、この足はねずみを追いつくどころか、何かに躓いて転んでしまいそうになる。
「うわぁぁぁぁ!」
「大丈夫かっ?」
「……へ?」
でも転ばなかった。ワニさんが助けてくれたから。
「あ、ワニ……さん」
「気をつけないと、そこ、段差になっているから」
「……あ」
さっき月明かりの中で見た時は銀色に輝く髪しか目に入らなかったけれど、その睫も同じ色をしているんだ。
すごい、キラキラ輝いて、瞬きをする度に小さな星がいくつも飛び散っているように感じる。
「あ、あの、君はこれが一体全体どういうことなのかわかるのか?」
目が合った。
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