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買い出したものを店に仕舞い、自宅へ向かう。車を自宅マンションから離れた駐車場に停めて帰る道。どこからか猫がひょっこり現れた。
「あとでな」
マンションの階段前で猫に言うと、恵太に向かってにゃあと返事を返した。
あの猫は人の言葉がわかるんだろうと、ぼんやりしながら部屋へ向かう。
よく考えたら一週間帰ってない。最近始めた店も、自宅も。
仕方ない。好きなことをやる代わりに別の仕事が来たら優先することが約束だ。
二階の廊下を歩き、家の玄関扉を見ると、なにか袋にいれられた箱がおいてあった。
「引っ越し?隣か」
いない間に誰か引っ越してきたらしい。あくびをひとつ漏らし、鍵を開けた。
コップ一杯の水を飲み干し、また玄関を出る。きっかりと鍵を閉めていると、となりのドアが開いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・ども!」
豆鉄砲を喰らった顔を爽やかな笑みに変え、挨拶をする青年へ恵太も頭を下げる。
若々しい黒い瞳に、明るめの茶髪が余計に爽やかですぐに目をそらした。
「誰もいないかなって思っちゃってて、もの音を聴いたんでつい」
「長めの留守をしてただけだ」
話を長引かせるタイプと断定し、恵太は話を切り上げる。背を向けて猫のもとへ向かった。
「あ、僕、木田っていうんです。よろしく」
後ろの声をうっとうしく思いながら。
階段を降りるとまだ猫は座っていた。恵太の姿を見た猫は嬉しげに尻尾をたてて、甘え声でよってくる。恵太はしゃがんで猫の背を撫でた。
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