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「けーた、いつ起きたん」
上から聞こえる声に、恵太は少し顔を向けた。視線のさきにいた由璃は、寝むげに顔を擦りながら降りてくる。マンションの下、恵太は猫を撫でながら答えた。
「さっき。あ、買い出しは行った」
「じゃ、はやいじゃん」
由璃はむくれた。ちらりと見返した恵太は悪態を胸にしまった。
(お前が遅いんだろうが)
昼夜逆転の仕事は未だに軌道に乗らず、さらに由璃にむくれた顔を見せられ苛立ちが募っていく。
猫から手を離し、その場から離れようと立ち上がる。だが、すぐに猫は体を擦り寄せてきて、小さな声で鳴いた。
微笑みを浮かべて甘えてくる猫は恐らく、恵太のじゃまになっているなんて思ってないだろう。むしろ、計算ずくだとしたらかなりの策士だ。
「なんで猫にしか見せないの」
思わず頬を緩めてしまった、そう気づいたときには由璃の足が猫に目掛けて降り下ろされていた。
猫は間一髪、飛び退いて高い塀へ全力疾走する。
由理を睨み付けると、いつもは兎のように可愛らしい顔が醜く歪んでいた。
「由璃」
「忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、忙しい、ってさ、なんで私と話してくれないの?あってくれないの?わたし、さ。けーたが好きなんだよ?他の女と話すのさえ嫌だし、仕事もしてほしくないし」
ああ、この女とはおしまいだ。捲し立ててくる彼女へ感情もなくなっていく。
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