2人が本棚に入れています
本棚に追加
恵太は女の肩に手を置く。期待を込めた瞳を冷淡な声で突き放した。
「邪魔だ。消え失せろ」
「ふえ?わたし、さ。あなたの彼女、だよ?消え失せろって・・・・・・」
「もう一度言う。消え失せろ。束縛女は嫌いだ」
口を鯉のように開け閉めするだけになった女を置き捨て、階段へ向かっていった。
その時強い力で腕を捕まれる。
「やっぱ、浮気してたんだ。じゃないとけーた、冷たくなんないし。浮気でしょ?」
なぜか確信めいたようにはっきりと女は告げる。言いがかりもいいところ、女の手を振り払った。
「"裏門に十一時"」
唐突に告げられた言葉に振り返る。唇を弧に曲げた女はいままでいた女に見えなかった。女の細い指は赤い封筒を挟んでいる。
得意気な媚びた笑みに胸が焼けそうで、破かれた封筒には失望を感じた。
しかし"裏門""十一時"・・・・・・。腕時計を慌てて確認すると、もうすでに五分前を指していた。喉の奥から奇妙な声が自然と出てくる。
楽しげに女は笑い、やっぱりなどと言って、恵太は余計に腹が立った。
「覚えてろ」
女へ言い残し、車を止めた駐車場へ走っていこうとした。女はにやにやと恵太の後ろへ回り、腰に手を回す。
「ねえ、連れてってよ」
「邪魔だ。仕事の」
「誤魔化さないで。ねぇ」
しつこさに舌打ちをし逃れようとするも、腰に手を回されどうにもならない。
仕方なしにスマホでSOSを送ると、余計女に噛みつかれた。
「と、いうわけで遅れた」
「ぶっ。あんたらしくないねぇ」
不躾な笑い声は不思議と不愉快さはない。だが、恵太は睨み付けるのを忘れない。
最初のコメントを投稿しよう!